
「FXの相場って、どうして特定の日や季節に同じような動きをするんだろう?」
こんな疑問を持ったことはありませんか?
実は、FX市場にはアノマリー(Anomaly)と呼ばれる”市場のクセ”が存在します。例えば、「ゴトー日はドルが買われやすい」「5月は株が下がりやすい」といった現象です。理論的な説明は難しいものの、過去のデータを分析すると確かに一定の傾向が見られます。
しかし、アノマリー手法だけに頼るのは危険です。相場は常に変化しており、過去の傾向が未来にそのまま当てはまるとは限りません。
本記事では、FXのアノマリー手法について詳しく解説し、実践的な活用法と注意点を紹介します。
アノマリー手法の基礎知識

FX市場における「アノマリー」とは、理論的な説明が難しいものの、過去のデータから特定の時期や条件下で発生しやすい市場の動きを指します。例えば、「ゴトー日(5日・10日)にドル円が上がりやすい」「1月は株価が上がりやすい」といったものが有名です。
なぜアノマリーが存在するのか?
アノマリーが生まれる理由はいくつかありますが、大きく分けて以下の3つが挙げられます。
- 市場参加者の習慣
- 企業の資金決済や機関投資家の取引ルールにより、特定のタイミングで一定の売買が発生することがあります。
- 例:ゴトー日に輸出企業がドルを買うため、ドル円が上がりやすい。
- 心理的要因
- 投資家の行動パターンが影響を与えることもあります。
- 例:「セル・イン・メイ(5月に売れ)」は、投資家が夏季休暇前にリスク回避のために売りを先行するため発生しやすい。
- 統計的な傾向
- 過去のデータを分析すると、特定の期間やイベント前後に一定の値動きが見られることがあります。
- 例:米国雇用統計発表の前日は、相場が小動きになりやすい。
これらの要因が重なり、アノマリーとして知られる市場のパターンが形成されるのです。しかし、市場環境の変化や大口投資家の行動によって、アノマリーが機能しなくなることもあります。そのため、過去のデータをもとにしつつも、常に最新の市場状況を考慮することが重要です。
FX市場における代表的なアノマリー
これらのアノマリーは過去のデータ分析から一定の傾向が見られますが、必ずしも100%の確率で発生するわけではないことを念頭に置きましょう。
ゴトー日アノマリー(5日・10日はドルが買われやすい)
ゴトー日とは?

「ゴトー日」とは、毎月 5日、10日、15日、20日、25日、30日(または月末日) を指します。日本企業の決済日にあたるため、輸出企業が海外売上を円に両替する一方で、輸入企業はドルを購入することが多くなります。
なぜドルが買われるのか?
- 日本企業が決済のために円を売り、ドルを買うケースが増える。
- ゴトー日の午前9時55分(東京仲値)にかけてドル円が上昇しやすい傾向がある。
実際のデータと注意点
- 過去の統計によると、ゴトー日にはドル円が上昇する確率が約60%とされている。
- ただし、近年では アルゴリズム取引 が増えたため、必ずしも毎回同じ動きになるとは限らない。

月末のロンドンフィキシング(ポンドが買われやすい)
ロンドンフィキシングとは?

「ロンドンフィキシング」とは、ロンドン市場の為替レートの基準価格が決まる時間帯(日本時間0時)を指します。
なぜポンドが買われやすいのか?
- 月末の機関投資家のリバランス(資産調整)でポンド買いが発生しやすい。
- 英国系ファンドが運用資金を母国通貨(ポンド)に戻すことが多いため。
実際のデータと注意点
- 2000年代の統計では、月末のロンドンフィキシングではポンド買いの動きが強かった。
- しかし、最近では 必ずしもポンド高とはならない ため、過去データだけに頼らず市場の流れを確認することが重要。
サマーラリー(夏場は相場が上昇しやすい)
サマーラリーとは?

サマーラリー(Summer Rally)とは、7月~8月にかけて相場が上昇しやすい現象のこと。主に株式市場で言われるアノマリーですが、FX市場にも影響を与えることがあります。
なぜ夏場に相場が上昇しやすいのか?
- 投資家が夏季休暇前にリスクを取りやすくなる。
- 米国の経済指標が堅調な場合、リスクオンの動きが強まる。
実際のデータと注意点
- 近年のデータでは、米ドルやユーロが夏場に強くなる傾向が見られる。
- ただし、2020年のコロナショックのような例外もあるため、慎重な判断が必要。
セル・イン・メイ(5月に売れ)
セル・イン・メイとは?

「セル・イン・メイ(Sell in May and go away)」とは、5月に株を売って夏は休むべきという経験則です。FX市場でも、リスクオフの流れが強まりやすい傾向があります。
なぜ5月に売られるのか?
- 夏季休暇前に投資家がリスク資産(株・リスク通貨)を整理する。
- 欧米のファンドがポジションを調整し、ドルや円などの安全資産に資金を移す。
実際のデータと注意点
- 5月のドル円は下落する確率が過去50%以上とされる。
- ただし、年によって相場環境が異なるため、5月=必ず下落とは限らない。
ジャニュアリーエフェクト(1月の市場動向)
ジャニュアリーエフェクトとは?

「ジャニュアリーエフェクト(January Effect)」とは、1月は相場が活発になりやすいというアノマリーです。
なぜ1月に相場が動きやすいのか?
- 年末に売られた資産が1月に買い戻される。
- 投資家が新年度の運用計画をスタートするため。
実際のデータと注意点
- 1月のドル円は大きく動くことが多いが、上昇と下落のパターンは年によって異なる。
- 米国の金融政策や地政学リスクの影響を受けやすいため、事前の分析が重要。
月ごとのアノマリー
1月
相場の方向感は、その年全体のトレンドを予測する手がかりになります。
つまり、1月が上昇すればその年は上昇トレンドに、下落すれば下落トレンドになりやすいです。
特に、株式市場で新しい資金が入りやすい時期では、1月は上昇トレンドが形成されやすく、為替市場も株式市場と連動して上昇する可能性が高くなります。
また、1月にはその年の最高値または最安値が出ることがよくあります。
2月
これは米国債の償還や利払いなどが影響し、資金の移動やポジションの調整が行われるためです。
そのため、特にドル円の場合、下落する可能性が高く、月初めから月末までの間に下落傾向が見られることがあります。
3月
日本企業が年度末に向けて外貨を円に交換する動きが見られるため、ドル円の下落傾向が強くなります。
4月
外貨投資が活発化するため、為替市場が大きく動く月と言われています。
この時期はドルが買われ、円が売られる傾向にあり、ドル円は上昇しやすいです。
5月
「SELL IN MAY」という格言が知られており、この月に株式市場や為替市場が売りムードになることがよくあります。
利益確定の売りが増え、ドル円が大きな転換点となることがあります。
6月
5月と同様に相場の転換点となりやすい月です。この月にもその年の最高値または最安値が出ることがあります。
7~8月
7月と8月は夏休みに入るため、市場が閑散としやすく、ドル円の動きが予測しやすくなります。
特に日本の市場では、円高ドル安の傾向が強まります。
9~10月
また、日本企業の中間決算に伴い、ドル円の下落傾向が強まります。
アメリカでは「10月効果」と呼ばれる現象もあり、株価が大きく変動することがあります。
11月
9月から続いたトレンドが終わりを迎え、ポジションの調整が行われることが多い月です。
12月
12月はクリスマス休暇に向けて市場が荒れやすくなります。
取引参加者が減少し、市場が閑散として取引が活発でなくなるため、ボラティリティが高まり、トレンドが出にくくなります。
アノマリー手法の活用法
FX市場のアノマリーを知っているだけでは、実際のトレードで活用することはできません。

ここでは、アノマリーの効果的な活用法を解説します。
アノマリーをトレード戦略に組み込む方法
アノマリーは、それ単体で利益を生むものではありません。
トレード戦略として活用する際は、他の分析手法と組み合わせることが不可欠です。


1. テクニカル分析と併用する
アノマリーだけでは、どこでエントリー・エグジットすべきかの判断が難しいため、テクニカル分析と組み合わせるのが効果的です。
- ゴトー日アノマリー × ボリンジャーバンド
- ゴトー日の朝にドル買いが入りやすいことを考慮し、ボリンジャーバンドの下限で買い、上限で決済する戦略を採用。
- ロンドンフィキシング × トレンドライン
- 月末のロンドンフィキシング前後のポンド買いを狙う場合、短期のトレンドラインを確認し、押し目買いを狙う。
- セル・イン・メイ × 移動平均線
- 5月の株安・円高傾向に合わせ、200日移動平均線を下回ったタイミングで売りエントリー。
2. 経済指標と照らし合わせる
アノマリーはあくまで「統計的な傾向」なので、経済指標の影響を受けることも考慮する必要があります。
- 例えば、米国雇用統計の発表がゴトー日と重なる場合、通常のドル買いの流れが崩れる可能性がある。
- 中央銀行の政策発表(FOMC、日銀会合など)が近い場合は、アノマリーよりもファンダメンタルズ要因が優先されることが多い。
3. リスク管理を徹底する
アノマリーに頼りすぎると、想定外の値動きに対応できなくなるため、リスク管理が必須です。
- 損切り・利確のルールを決める
- 例えば、ゴトー日のドル買い戦略を採用する場合、「東京仲値の直前で利益確定」「仲値後に一定幅逆行したら損切り」といった明確な基準を設ける。
- 資金管理を徹底する
- アノマリーが機能しないケースもあるため、1回のトレードで資金の数%以上をリスクにさらさないことが重要。
アノマリーの効果を最大化するためのリスク管理
市場環境の変化や想定外の出来事が発生すれば、アノマリーが機能しないこともあります。



ここでは、アノマリーの効果を高めつつ、リスクを抑えるための管理方法を解説します。
アノマリーが機能しないケースを理解する
アノマリーが過去に機能していたとしても、次のようなケースではその効果が薄れることがあります。


1. 経済イベントや地政学リスクの影響
- 中央銀行の政策変更(例:FOMCや日銀の金融政策発表)
- 例えば、ゴトー日だからといってドル円の上昇を期待しても、FRBが利下げを発表すればドル安要因となり、アノマリーが機能しないことがある。
- 戦争・テロ・金融危機などの突発的なニュース
- 2022年のウクライナ侵攻時は、リスク回避の動きが強まり、通常のアノマリーとは異なる動きが頻発した。
2. アルゴリズム取引の影響
- 近年、機関投資家のアルゴリズム取引(AIによる自動売買)が増加し、過去のアノマリーが通用しなくなっているケースがある。
- 例えば、ゴトー日のドル買いは昔ほど明確ではなくなり、アルゴリズムが「織り込み済み」と判断して、逆に売りが強まることもある。
リスク管理の基本ルール
アノマリーを活用する際には、以下のリスク管理のルールを徹底することで、不要な損失を防ぐことができます。


1. 損切り・利確ラインの設定
アノマリーを根拠にエントリーする場合は、どこで損切りするか、どこで利益を確定するかを明確に決めることが重要です。
- ゴトー日アノマリーの例
- エントリー: 9時前後にドル買い(USD/JPY)
- 利確: 仲値(9時55分)の直前
- 損切り: 直近の安値を割ったら即撤退
- 月末のロンドンフィキシングの例
- エントリー: 23時頃にポンド買い(GBP/USD)
- 利確: 0時30分までに決済
- 損切り: 直近のサポートラインを下回ったら損切り
2. ポジションサイズの管理
アノマリーに100%の確信を持つことはできません。万が一アノマリーが機能しなかった場合でも、資金の大半を失わないように、ポジションサイズを適切に管理することが大切です。
- 1回のトレードで資金の2%以内のリスクに抑える
- 例えば、100万円の資金がある場合、1回のトレードでの損失は2万円以内に抑える。
3. リアルタイムの市場状況を確認する
- 過去のデータを盲信せず、現在の市場環境を分析する
- 例えば、ゴトー日でも「ドル売りの流れが強い日」は、アノマリーが機能しにくい。
- 経済指標カレンダーをチェックする
- 重要な経済指標(雇用統計、CPIなど)がアノマリーの日と重なる場合、値動きが通常と異なる可能性がある。
アノマリーEA解説
ここからは、実際にアノマリーEAの運用方法を解説していきます。
EAの特徴
アノマリーにはその確率が高いものもありますが、投資家たちは相場の動きにはさまざまな要因が関与していることを理解しています。
したがって、トレンドに沿って取引する場合には、逆方向のアノマリーがある場合には注意することが重要ですが、あまり神経質になる必要はありません。
アノマリーのロジックが組み込まれているEAは基本的にほかのロジックと合わせている場合が大半になります。
EAの選び方


次にそのEAが他に、どのロジックが搭載されているのかを確認しましょう。
他のロジックが自分の好みの取引手法なら、あとはその取引手法のEAの特徴や選び方を確認しましょう。


注意点
アノマリーとは、ファンダメンタルズのようなテクニカルや理論では説明のつかないものの、高い確率で相場を動かすこともあります。
100%頼り切るのはギャンブル性が上がってしまうので、そういうアノマリー対策のロジックが組み込まれたEAを使うときは、他の取引手法も取り入れてトレードしましょう。
アノマリー手法の注意点と最新の傾向
アノマリー手法は過去の統計的な傾向を利用するトレード戦略ですが、市場環境が変化すると従来のパターンが通用しなくなることがあります。
近年の市場環境の変化とアノマリーの信頼性
過去に有効だったアノマリーが、近年では機能しにくくなっているケースが増えています。その背景として、次の3つの要因が挙げられます。
1. コロナショック後の市場変化
- 2020年のコロナショック以降、各国の金融政策が大きく変化し、従来の市場のリズムが崩れた。
- 例えば、ゴトー日のドル買いアノマリーが弱まる傾向が見られるようになった。
- 理由:コロナ後の金融緩和で企業のドル調達が変化し、決済のタイミングが分散化。
2. AI・アルゴリズム取引の影響
- 機関投資家のアルゴリズム取引が進化し、過去のアノマリーが織り込まれやすくなっている。
- 例えば、月末のロンドンフィキシングのポンド買いが以前ほど顕著ではなくなった。
- 理由:AIが過去データを分析し、投資家よりも先に仕掛けることで、市場の動きが変化。
3. 金融政策の変化
- FRBや日銀の政策変更が、アノマリーの影響を弱めることがある。
- 例えば、「セル・イン・メイ」が機能しない年も増えている。
- 理由:中央銀行の金融政策が流動的になり、5月の売り圧力よりも政策の影響が強くなることがある。
アノマリーを活用する際の心構え
アノマリー手法を利用する際は、次のポイントを意識すると、より効果的なトレードが可能になります。
1. 最新の市場データを検証する
- 過去の統計データだけに頼らず、現在の市場の流れをチェックすることが重要。
- 例えば、ゴトー日のドル買いを狙う場合、
- 直近3ヶ月のデータを検証し、本当にドル買いが発生しているか確認する。
2. 他の分析手法と組み合わせる
- アノマリー単体ではなく、テクニカル分析やファンダメンタルズ分析と併用することで、精度を高める。
- 例えば、
- ゴトー日 × ボリンジャーバンドの押し目買い
- ロンドンフィキシング × サポートラインの反発狙い
3. 過信せず、常にリスク管理を徹底する
- アノマリーは確率論であり、100%の勝率ではないことを理解する。
- 1回のトレードで過剰にリスクを取らず、損切りと資金管理を徹底する。
まとめ
FX市場におけるアノマリー手法は、過去の統計データを活用し、市場のクセを狙うトレード手法です。代表的なアノマリーとして、以下のようなものがあります。
- ゴトー日アノマリー(5日・10日はドルが買われやすい)
- 月末のロンドンフィキシング(ポンドが買われやすい)
- サマーラリー(夏場は相場が上昇しやすい)
- セル・イン・メイ(5月はリスクオフの流れが強まりやすい)
- ジャニュアリーエフェクト(1月は市場が活発になりやすい)
しかし、アノマリーはあくまで確率的な傾向であり、必ずしも毎回同じ動きをするわけではありません。そのため、単体でのトレード判断には向いておらず、他の分析手法と組み合わせることが重要です。
また、近年の市場環境の変化により、アノマリーが機能しにくくなっているケースも増えています。AIによるアルゴリズム取引の影響や、各国の金融政策の変動が、市場のリズムを変えているためです。そのため、最新の市場データを確認しながら、慎重にアノマリーを活用する必要があります。
アノマリー手法を効果的に使うためには、次の3つのポイントを押さえておくと良いでしょう。
- 過去のデータを検証し、現在も機能しているか確認する
- テクニカル分析やファンダメンタルズ分析と組み合わせてトレード戦略を立てる
- 損切り・利確ラインを決め、リスク管理を徹底する