
FX取引では、特に経済指標の発表時などに、数銭から数十銭単位のスリッページが発生することがあります。
スリッページとは、注文時と実際に約定した価格に差が生じる現象で、取引結果に大きな影響を与えることがあります。
スリッページとは
スリッページは、注文時に指定した価格と実際の約定価格に差が生じる現象です。特に市場の急激な変動時や取引量が少ない時間帯に発生しやすく、スリッページの発生は避けられません。
例えば、米ドル/円で140.000円の価格で買い注文を出しても、実際には140.050円で約定するケースがあります。この0.050円の差がスリッページです。
特に注目すべき点として、スリッページは双方向に発生する可能性があります

これらの価格差は、取引量や市場環境によって大きく変動します。
例えば、10万通貨の取引で0.050円のスリッページが発生した場合、5,000円の予期せぬコストが発生することになります。
スリッページが発生する仕組み
市場の急激な変動や重要な経済指標の発表後など、瞬時に価格が変わる場面ではスリッページが発生しやすくなります。また、取引方式によってもスリッページの頻度や影響は異なります。
急激な為替レートの変動
FX市場は、24時間常に変動しており、特に短期間で大きく動くタイミングではスリッページが発生しやすくなります。
経済指標発表時の影響
このような状況では、注文時の価格と約定価格が大きくズレる可能性が高くなります。
市場の流動性が低い時間帯
市場参加者が少ない時間帯(例:日本時間の早朝や週末)では、取引量が減少し、スプレッドが広がりやすくなります。これにより、指定した価格で注文を出しても、約定する際には別の価格になってしまうことが多くなります。
FX会社の注文方式による影響
FX会社ごとの「注文処理の仕組み」によっても、スリッページの発生しやすさが異なります。
NDD方式とDD方式の違い
- NDD(No Dealing Desk)方式:取引が直接インターバンク市場に流れるため、透明性は高いが、市場の変動に応じたスリッページが発生しやすい。
- DD(Dealing Desk)方式:FX会社がディーリングを行い、価格を調整するため、スリッページが抑えられる場合があるが、注文の約定が遅れるリスクもある。
これらの方式の違いは、スリッページの発生頻度と大きさに直接影響を与えます。


スリッページが発生しやすい注文方式
- 指値注文・逆指値注文:指定した価格でしか約定しないため、スリッページの影響は少ないが、そもそも約定しないリスクもある。
- 成行注文:現在の市場価格で即時約定するため、価格変動が激しいとスリッページが発生しやすい。
ネット環境や取引ツールの影響
スリッページは、単に市場の動きだけでなく、トレーダー自身の環境によっても発生することがあります。

通信遅延によるスリッページ
インターネットの回線速度が遅いと、注文を出してからFX会社のサーバーに到達するまでに時間がかかり、その間に価格が変動してスリッページが発生する可能性があります。
サーバーの処理速度と約定力
FX会社のサーバーが混雑していると、注文が処理されるまでに時間がかかることがあります。
特に、大きな市場イベントの直後などは注文が集中し、約定が遅れることが多いため、スリッページが起こりやすくなります。
スリッページの対策と予防方法
スリッページを完全に防ぐことはできませんが、適切な対策をとることで最小限に抑えることが可能です。ここでは、スリッページを防ぐための具体的な方法を紹介します。

①許容スリッページの設定
FXの取引ツールでは、スリッページを一定範囲内に制限する「許容スリッページ設定」が可能な場合があります。
設定の重要性とメリット
許容スリッページを設定することで、想定外の価格で約定するリスクを抑えられます。例えば、「許容スリッページ=0.5pips」と設定すれば、0.5pips以内のズレであれば約定し、それ以上のズレが発生する場合は約定しません。
許容スリッページの適切な値
- スキャルピング(超短期取引) → 0.1〜0.5pips(できるだけ小さく)
- デイトレード → 0.5〜1.0pips(バランス重視)
- スイングトレード(長期取引) → 1.0pips以上(許容範囲を広げる)
②スリッページの少ないFX会社を選ぶ
FX会社ごとに「約定力」は異なり、スリッページが発生しやすい会社と発生しにくい会社があります。
約定力の高いFX会社の特徴
- 約定率が99%以上:約定力が高く、スリッページの発生が少ない。
- サーバーの処理速度が速い:注文が素早く処理され、価格変動による影響を最小限にできる。
- NDD方式を採用:透明性が高く、公正な取引が可能。
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実際の約定率をチェックする方法
- 各FX会社の公式サイトで「約定率」の情報を確認する。
- ネットの口コミやレビューで、実際のトレーダーの評価を調べる。
- デモ口座で取引を試し、約定のスムーズさを体感する。
③取引のタイミングを工夫する
スリッページが発生しやすいタイミングを避けることで、無駄な損失を防ぐことができます。
スリッページが発生しやすい時間帯を避ける
- 経済指標発表の前後(例:米国雇用統計、FOMC)
- 市場の流動性が低い時間帯(日本時間の早朝、祝日など)
経済指標発表前後のトレード戦略
- 発表の前後は取引を控える(特に短期トレード)
- ストップロスを広めに設定し、急変動に備える
- スリッページが発生しにくい「指値注文」を活用する
④ ネット環境と取引ツールの最適化
スリッページは、インターネット環境や取引ツールの影響も受けます。
高速回線の選び方
- 光回線などの安定した高速インターネットを利用する。
- Wi-Fiではなく、有線LANを使用することで通信の安定性を確保する。
VPS(仮想専用サーバー)の活用
スリッページが取引に与える影響

損益への直接的な影響
スリッページが損益に与える影響は、以下の3つの側面から考える必要があります
- 予期せぬ手数料の発生
- 想定以上の取引価格の変動
- ポジション調整時の追加コスト
これらの影響は、特に短期売買を行うトレーダーにとって深刻な問題となります。
例えば、1日に10回の取引を行うスキャルパーが、1回あたり0.02円のスリッページを経験した場合
10万通貨での取引例
0.02円 × 10万通貨 = 2,000円(1回あたりの影響額)
2,000円 × 10回 = 20,000円(1日あたりの影響額)
このように、小さなスリッページでも取引回数が増えるほど、累積的な影響が大きくなっていきます。
取引機会の損失リスク
スリッページは単なる価格差の問題だけでなく、以下のような取引機会の損失も引き起こします
- エントリーポイントの逸失
- 利益確定の遅れ
- 損切りの遅延
これらの状況は、特に以下のような場面で顕著に表れます
市場が急激に動く場面での例
米雇用統計発表直後、140.000円でのエントリーを狙っていても、実際には140.100円まで価格が跳ね上がってしまい、理想的なエントリーポイントを逃してしまうケース。このような状況では、以下の2つの選択を迫られます
- より不利な価格での取引実行
- 取引機会の放棄
どちらを選択しても、当初の取引計画からは外れることになり、期待していた利益機会を逃すことになります。
【具体的な影響事例】

トレンドフォロー戦略での影響
- エントリー:想定価格140.000円→実際140.050円
- 利確目標:140.200円
- 結果:想定利益0.200円→実現利益0.150円
(予定利益の25%減少)
スキャルピング戦略での影響
- 目標利益幅:0.050円
- スリッページ:0.020円
- 結果:実質的な利益幅0.030円
(予定利益の40%減少)
このように、取引スタイルによってスリッページの影響度は大きく異なります。特に、小さな値幅で取引を行うトレーダーほど、スリッページの影響を受けやすい傾向にあります。
スリッページを最小限に抑える方法
スリッページを完全に回避することは難しいですが、以下の方法でその影響を最小限に抑えることが可能です。
- 取引時間帯の選択:市場が落ち着いている時間帯に取引を行う。
- ポジションサイズの調整:大きなポジションを取らず、小さめのポジションで取引する。
- 利益目標の設定:スリッページを考慮した上で現実的な利益目標を設定する。
まとめ
FXにおけるスリッページは、取引時に想定した価格と実際の約定価格に差が生じる現象で、特に市場の急激な変動時に発生しやすいです。
取引計画を立てる際には、スリッページのリスクを考慮し、取引時間帯やポジションサイズ、利益目標を適切に設定することが重要です。
適切な対策を講じることで、スリッページの影響を最小限に抑え、より効果的な取引を行うことができます。