
スリッページとは?意味と、FXで価格が滑る(ずれる)原因

スリッページの意味|注文価格と約定価格のずれ
スリッページ(slippage)は、画面で見た価格と約定した価格のずれのことで、日本語では「滑る」と表現します。買い注文で約定価格が高くなったり、売り注文で低くなったりすると、不利なスリッページです。逆に、買いで安く、売りで高く約定することもあり、これは有利なスリッページ(プラススリッページ)と呼ばれます。
図は、2024年1月5日の雇用統計の発表前後のドル円です。発表の瞬間までは動きがほとんどなかった価格が、0.5秒後に直前より約8pips上がり、1秒後には約11pips、2秒後には約30pips高い水準になり、約3秒後には35pips以上高くなりました。この間に成行注文を出すと、画面で見た価格と約定の価格が大きくずれる可能性があります。
滑る原因は、価格の急変と流動性の低下
スリッページが起きる原因は、大きく3つです。注文を出してから約定するまでの間に、価格が動くこと。約定したい価格に出ている注文の量(流動性)が少ないこと。注文が業者のサーバーに届くまでの時間(遅延)があることです。
| 原因 | 何が起きるか | 起きやすい場面 |
|---|---|---|
| 価格の急変 | 注文が約定する前に、価格が先へ動く | 雇用統計などの経済指標の発表直後 |
| 流動性の低下 | 注文の量が少なく、少し離れた価格で約定する | 日本時間の6〜7時台など、取引が薄い時間 |
| 注文の遅延 | 発注から約定までの間に価格が動く | 通信が遅いとき、価格の動きが速いとき |
業者の注文方式によっても、ずれの出方は変わります。業者のタイプの違いはA-bookとB-bookの記事やNDD方式の記事で説明しています。

アドバイススリッページは、価格が動いている間に注文が通ることで起きるんだ。有利にずれることもあるよ。
スリッページが起きやすい時間帯と場面|雇用統計・ロンドン開場・NY17時の実測

計測の方法|価格の動く幅であり、実際の約定のずれではない
ここからは、Dukascopyのティックデータ(2022〜2025年)で、ドル円・ユーロドル・ポンドドルの価格の動きを集計した結果です。各時刻の直前の気配を基準にして、その後の100ミリ秒・1秒・5秒の間に、基準の中値から最大でどれだけ動いたかを数えました。「ふだん」は、平日の日本時間で10分ごとの10秒目を取った回で、ドル円は126,729回、ユーロドルは118,929回、ポンドドルは121,176回です。
この数字は、成行注文がずれうる幅の目安であり、実際に約定した価格のずれではありません。実際のスリッページは、約定の記録と注文時の価格を突き合わせないと測れず、自社の記録にはその列がないため、未計測です。Dukascopyの提示値は、実際に取引する業者のものとも異なります。
雇用統計の直後は、1秒の動きがふだんの10倍以上
米雇用統計(米東部8:30)の47回について、発表直後の1秒間の動きを見ました。ドル円は、中央値が1.5pips、95%点が11.1pipsで、最大は22.8pipsです。ふだんの1秒間の動きは、中央値が0.05pips、95%点が0.9pipsでした。ユーロドルは95%点が0.5pipsから4.9pips、ポンドドルは0.7pipsから7.9pipsに広がっています。発表の前に出ているスプレッドも、ドル円の中央値で4.0pipsと、ふだんの0.6pipsより広がっていました。
| 場面(1秒間の動き・95%点) | ドル円 | ユーロドル | ポンドドル |
|---|---|---|---|
| ふだん | 0.9pips | 0.5pips | 0.7pips |
| 雇用統計の直後(47回) | 11.1pips | 4.9pips | 7.9pips |
| ロンドン開場(8:00) | 2.0pips | 1.7pips | 2.1pips |
| NY17時(ロールオーバー) | 2.0pips | 1.4pips | 2.3pips |

動きがある幅以上になった割合で比べると、違いがさらにはっきりします。ドル円で1秒間に1pips以上動いたのは、ふだんが3.4%、雇用統計の直後が57%です。3pips以上は0.3%と32%、5pips以上は0.1%と26%で、10pips以上はふだんが0.02%(126,729回のうち25回)、雇用統計の直後が11%でした。ただし、雇用統計は47回しかないので、割合には数%の誤差があります。
時間帯による価格の動きの違いは小さく、早朝はスプレッドが広がる

時間帯別に見ると、1秒間の動きの95%点は、ドル円で0.5〜1.3pipsの範囲にとどまり、雇用統計のような差はありません。大きく変わるのはスプレッドです。日本時間の午前6時台に、ドル円のスプレッドの95%点は10.4pips(中央値は1.8pips)、7時台は7.5pips(中央値は1.4pips)まで広がります。ユーロドルは6時台が5.1pips、ポンドドルは10.6pipsです。昼間の12時台は、ドル円の95%点が1.1pipsでした。
この時間は、ニューヨークの17時前後にあたり、1日の取引の区切りで流動性が下がります(日本時間は、米国の夏時間で6時、冬時間で7時)。6時台は、直前の気配が古い回を除いたため、ドル円で2,933回と、ほかの時間より件数が少ない点に注意してください。早朝の取引では、価格の飛びよりも、広がったスプレッドが実質のコストになります。
ロンドン開場とNY17時は、動きとスプレッドで性質が違う

ロンドン開場(現地8:00)は、ドル円の1秒間の動きの95%点が2.0pips、スプレッドの最大値は1.1pipsで、スプレッドはほとんど広がりません。NY17時は、動きは同じ2.0pipsでも、直前のスプレッドの中央値が4.3pips、1秒間の最大値の95%点が13.2pipsまで広がります。同じ「流動性が下がる場面」でも、雇用統計は価格が飛び、NY17時はスプレッドが広がるという違いがあります。
注文の遅延が長いほど、動く幅は大きくなる

注文が約定するまでの時間が長いほど、価格はずれやすくなります。ドル円の動きの95%点は、ふだんは0.1秒で0.2pips、1秒で0.9pips、5秒で2.0pipsでした。雇用統計の直後は、0.1秒で1.5pips、1秒で11.1pips、5秒で75pipsです。発表直後は、0.1秒(1.5pips)でも、ふだんの1秒の動き(0.9pips)を上回る幅が動いています。通信の遅延を減らす意味は、指標の直後ほど大きくなります。
アドバイスふだんの1秒の動きは1pips未満が大半だよ。雇用統計の直後と早朝のスプレッドだけが別物だね。
スリッページの計算方法と、実質コストへの影響

スリッページの計算式|pipsと金額に直す
スリッページは、買いは「約定価格 − 注文時の価格」、売りは「注文時の価格 − 約定価格」で計算します。値がプラスなら不利、マイナスなら有利です。ドル円は1pips=0.01円なので、150.00円で買い注文を出して150.005円で約定したなら、スリッページは0.5pips(不利)です。
金額への換算|1万通貨で1pipsが100円
ドル円1万通貨なら、1pips(0.01円)の差は100円です。0.5pipsのスリッページなら1回で50円、1pipsなら100円です。図のように月200回取引すると、0.5pipsで1万円、1pipsで2万円、2pipsで4万円、3pipsで6万円になります。これは式による計算で、実際の取引のずれがこの値だという意味ではありません。取引回数が多い手法ほど、1回の小さなずれが積み上がります。
スプレッドとの違い|どちらも取引ごとのコストになる
スプレッドは、買値と売値の差で、取引の前に画面で分かる費用です。スリッページは、約定したあとに分かる、注文価格とのずれです。Dukascopyの提示値では、ふだんのドル円のスプレッド(中央値)は0.6pipsでした。そこにスリッページが0.5pips加われば、1回の取引で1.1pipsの費用になります。1回の利益の目標が5pipsのスキャルピングなら、スリッページだけで目標の10%です。スキャルピングのように利益幅が小さい手法ほど、影響が大きくなります。

アドバイス1回のずれは小さくても、取引回数が多いと積み上がるよ。スプレッドとあわせてコストを見よう。
スリッページの設定|許容スリップ(Deviation)の意味とどのくらいにするか

許容スリップとは|MT4・MT5の「Deviation」
許容スリップとは、約定を許す価格のずれの上限です。ずれが上限を超えると、注文は約定せず、新しい価格が示されます(リクォート)。MT4では、新規注文画面の「Maximum deviation from quoted price」にpipsで入れ、チェックを外すと上限は設けません。この欄は、業者が「Instant Execution(成行・即時)」と設定した銘柄でだけ使えます。MT4のメニュー「ツール」の「オプション」の「取引」タブにある「Deviation」は、その既定値です。
MT5では、設定の「取引」タブの「Use Deviation」で既定の許容幅を決めます。MT5の公式ヘルプによると、指値注文には不利なスリッページがなく、逆指値注文は指定した価格か、それより不利な価格で約定します。EAの発注関数(MqlTradeRequest)の「deviation」は、MT5ではポイント単位です。5桁や3桁表示の業者なら、10ポイントが1pipsです。業者が「Market Execution」にしている銘柄は、注文時に価格を指定しない方式なので、この許容幅は使えません。画面名や使える銘柄は業者の設定で変わるため、使っている口座で確認してください。
許容スリップはどのくらいに設定するか|計測から言えること
この計測では、ふだんの1秒間にドル円が2pips以上動いたのは0.7%でした(ユーロドルは0.2%、ポンドドルは0.4%)。1pips以上は3.4%です。一方、雇用統計の直後は、ドル円で2pips以上が38%、3pips以上が32%でした(2pips以上は、ユーロドルが13%、ポンドドルが15%)。許容幅を2〜3pips程度に置くと、ふだんなら価格の動きで拒否されることは少なく、指標の直後はそれでも通らない注文が増えると考えられます。拒否が多すぎると取引の機会を失い、広げすぎると不利なずれを受け入れることになるため、手法の1回の利益幅に対して、小さめにするのが基本です。
ただし、許容スリップは注文時の気配と約定価格のずれに対する上限で、ここで集計した「基準から動いた幅」とは別の量です。実際にいくつに設定すべきかは、使う業者の約定の遅さと手法によって決まるため、この集計は目安として使ってください。EAでは、許容幅をパラメーターにして、デモ口座で拒否の回数と約定のずれを記録してから決めるのが確実です。
アドバイス許容スリップは、狭すぎると注文が通らず、広すぎると不利なずれを受け入れるよ。手法の利益幅に合わせて決めてね。
スリッページの対策|注文方法・取引時間・VPS・業者選び

指値注文を使う|注文方法を選ぶ
価格を指定する指値注文は、約定価格が指定より不利にならないため、不利なスリッページを避けられます。その代わり、価格が届かなければ約定しません。逆指値(損切りを含む)は、指定した価格に届いたあと成行で約定するため、急変時には指定より不利な価格になることがあります。注文の種類はFXの注文方法の記事で説明しています。

指標の発表直後とNY17時前後を避ける
この計測で価格の動きとスプレッドの両方が大きく広がったのは、雇用統計の直後とNY17時前後(日本時間の6〜7時台)でした。成行で入るなら、この時間を外すのが最も簡単な対策です。ふだんの時間帯なら、図のとおり、ドル円の1秒間の動きの95%点は0.5〜1.3pipsでした。EAを使う場合は、指標の前後や早朝に取引しない時間帯のフィルターを入れる方法があります。
VPSで注文の遅延を減らす
注文が約定するまでの時間が短いほど、価格が動く余地が小さくなります。自宅のパソコンより、業者のサーバーに近いVPSのほうが、通信の遅延を減らせます。ただし、ふだんの動きは小さいので、VPSの効果が大きいのは指標の直後のような速い相場と、1回の利益幅が小さい手法です。VPSの記事も参考にしてください。
スリッページが少ない業者を選ぶ|公表されている数字で比べる
業者の約定の強さは、業者が公式サイトで公表している約定率やスリッページの割合などの数字で比べます。公表のない業者は、デモ口座や少額の取引で自分の記録をとって確認してください。本記事では、業者ごとの数字を独自に測っていないため、特定の業者の優劣は述べません。業者の比較は取扱ブローカーの一覧や約定力の比較にまとめています。注文方式の違いはDD方式の記事で説明しています。

本記事は情報提供のみを目的としており、投資勧誘ではありません。FX取引は元本を超える損失が出るおそれがあります。投資は自己責任で、余剰資金の範囲で慎重に判断してください。集計はDukascopyの提示値で、実際の取引業者の約定とは異なります。
アドバイス対策は、指標の直後と早朝を避ける、指値を使う、遅延を減らす、の3つが基本だよ。
要点
・スリッページとは、注文価格と約定価格のずれで、有利にも不利にも出ます。
・ドル円の1秒間の動きの95%点は、ふだん0.9pips、雇用統計の直後は11.1pipsです(47回)。
・時間帯による価格の動きの違いは小さく、日本時間の6〜7時台に広がるのはスプレッドです(ドル円の95%点が6時台10.4pips)。
・MT4の許容スリップはpips、MT5のEAの設定はポイント単位で、成行の「Market Execution」の銘柄では使えません。
・この数字は価格の動く幅で、実際の約定のずれではありません。自社の約定記録でのスリッページは未計測です。
スリッページのよくある質問
スリッページとは何ですか?
注文したときの価格と、実際に約定した価格のずれのことです。価格が動いている間に注文が通ると起きます。買いで高く、売りで安く約定すると不利、反対なら有利なスリッページです。
FXで価格が滑る原因は何ですか?
価格の急変、流動性の低下、注文の遅延が主な原因です。本記事の集計では、ドル円の1秒間の動きの95%点が、ふだんは0.9pipsでしたが、雇用統計の直後は11.1pipsでした。日本時間の6〜7時台は、価格の動きよりスプレッドが広がります。
スリッページの設定(許容スリップ)はどのくらいにすればよいですか?
手法の1回の利益幅に対して小さめにするのが基本で、一律の正解はありません。本記事の集計では、ふだんの1秒間にドル円が2pips以上動いたのは0.7%、雇用統計の直後は38%でした。使う業者の約定の遅さで変わるため、デモ口座で拒否の回数とずれを記録してから決めてください。
許容スリップとは何ですか?
約定を許す価格のずれの上限です。MT4では新規注文画面の「Maximum deviation from quoted price」にpipsで入れ、MT5のEAの設定(deviation)はポイント単位です。成行の「Market Execution」の銘柄では、この許容幅は使えません。
スリッページは常に不利ですか?
いいえ、有利な方向にずれることもあります。買いで安く、売りで高く約定した場合は、プラススリッページです。なお、MT5の公式ヘルプでは、指値注文には不利なスリッページがないと説明されています。
スリッページを減らす方法は?
指標の直後と日本時間の6〜7時台を避ける、指値注文を使う、VPSで遅延を減らす、の3つが基本です。ふだんの時間なら、ドル円の1秒間の動きの95%点は0.9pipsと小さく、指標の直後に比べて影響は小さくなります。
スリッページとスプレッドの違いは?
スプレッドは買値と売値の差で、スリッページは注文価格と約定価格のずれです。どちらも取引のコストになります。Dukascopyの提示値では、ふだんのドル円のスプレッドは中央値0.6pipsでした。
スリッページが多い業者は避けるべきですか?
公表されている約定の数字と、自分の取引の記録で確認してください。本記事では業者ごとのスリッページを独自に測っていないため、特定の業者の優劣は判断できません。
スリッページのまとめ
スリッページは、注文価格と約定価格のずれで、有利にも不利にも出ます。ドル円の1秒間の動きの95%点は、ふだん0.9pips、雇用統計の直後は11.1pipsと10倍以上で、時間帯による違いは小さい一方、日本時間の6〜7時台はスプレッドが広がります。コストは、ドル円1万通貨で1pipsが100円、月200回なら0.5pipsで1万円と計算できます。許容スリップは、MT4ではpips、MT5のEAの設定ではポイントで指定し、手法の利益幅と業者の約定の遅さに合わせて決めます。対策は、指標の直後と早朝を避ける、指値を使う、遅延を減らす、の3つが基本です。これらはDukascopyのティック・2022〜2025年の集計で、実際の約定のずれは未計測です。FX取引には損失のおそれがあります。
⚠ リスクに関する注意事項
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